退去の準備をしている時、あるいは退去費用の見積書が届いた時、ふと疑問に思うことはありませんか?
「あれ? 入居する時に高い『敷金』を払ったはずだけど、なんでまた『クリーニング代』を請求されてるの?」 「敷金って、そういう時のために預けてあるお金じゃないの?」
このモヤモヤ、実は賃貸暮らしをする非常に多くの方が直面する悩みです。「もしかして二重取りされているんじゃ…」と不安になるのも無理はありません。
しかし、この疑問の答えは、実はあなたの手元にある契約書に隠されています。
この記事では、多くの人が誤解しやすい「敷金とクリーニング代の関係」と、支払わなくて済むケース・支払わなければならないケースの境界線を、法律や不動産の実務に基づいて徹底解説します。これを読めば、自分が払うべき正当な金額なのかどうか、自信を持って判断できるようになるはずです。
こっち側の人間としては、あんまり知らないで欲しいことですけどね・・・。同業者から怒られないといいな。
目次
そもそも「敷金」と「クリーニング代」は何が違う?
まずは基本の「キ」から整理しましょう。ここを混同していると、管理会社との話がかみ合わなくなってしまいます。

敷金は「あなたの預け金」
敷金とは、家賃の滞納や、あなたが部屋を壊してしまった場合の修理費に備えて、大家さんに「預けているお金」です。 あくまで「担保」として預けているだけなので、何も問題がなければ、退去時に全額返ってくるのが原則です。
クリーニング代は「サービス利用料」
一方、クリーニング代(ハウスクリーニング費用)は、専門業者が部屋を掃除するための「作業代金」です。
よくある誤解:「敷金から引かれる」の意味
「敷金からクリーニング代が引かれる」という言葉をよく耳にしますが、これは正確には以下の流れで行われています。
- 本来、あなたはクリーニング代を支払う義務がある(と仮定した場合)。
- でも、大家さんはあなたの敷金(現金)を預かっている。
- 「いちいち振込んでもらうのも面倒だから、預かっている敷金からクリーニング代を差し引いて、残りを返しますね」
つまり、「敷金とは別にクリーニング代がかかっている」ことには変わりないのです。「敷金があるから払わなくていい」のではなく、「敷金という財布から支払われている」というイメージが正解です。
衝撃の事実!本来、クリーニング代は「大家さん負担」が原則
ここで、多くの入居者が知らない、非常に重要なルールをお伝えします。
国土交通省が定めている『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』では、要約すると以下のように定義されています。
「次の入居者を確保するための化粧直し(グレードアップ)を含むハウスクリーニング費用は、貸主(大家さん)が負担するのが原則である」
驚きましたか? 普通に生活していてついた汚れ(日焼け、家具の設置跡、自然なホコリなど)を綺麗にする費用は、毎月払っている「家賃」に含まれていると考えられています。そのため、退去時の専門的なクリーニング費用は、本来であれば大家さんが支払うべきものなのです。
「えっ! じゃあ払わなくていいってこと!?」
そう思いたくなりますよね。しかし、現実には多くの物件で入居者がクリーニング代を負担しています。なぜ「原則:大家負担」なのに、私たちが払わされるのでしょうか?
ここに、契約書の「◯◯」が関わってくるのです。
疑問を解くカギは契約書の「特約事項」にあり
タイトルの答え合わせです。契約書のどこを見ればいいのか。 それは、「特約事項(とくやくじこう)」と書かれた欄です。

「特約」という魔法のルール
日本の契約自由の原則において、貸主と借主の双方が合意していれば、ガイドラインよりも「契約書の内容が優先」されます。
多くの賃貸契約書には、小さな文字で次のような一文が入っています。
「退去時のハウスクリーニング費用は、借主(入居者)の負担とする」
これを「クリーニング特約」と呼びます。 あなたがこの契約書にハンコを押している場合、「ガイドラインでは大家負担だけど、この部屋に限っては私が負担することに同意します」と約束したことになるのです。
これが、「敷金を入れているのに(あるいはガイドラインがあるのに)、クリーニング代を請求される理由」の正体です。
「敷金」と「特約」の二重取りではない
ここで最初の疑問に戻りましょう。「敷金があるのにクリーニング代も?」という疑問は、以下のように整理できます。
- ケースA:特約がある場合 あなたはクリーニング代を払う義務があります。 → 預けてある「敷金」から、特約で決まった「クリーニング代」が差し引かれ、残金が返金されます。 (※敷金がゼロの物件や、敷金で足りない場合は、別途請求されます)
- ケースB:特約がない場合 あなたはクリーニング代を払う必要はありません(故意に部屋を汚していない限り)。 → 敷金からクリーニング代を引くことは許されず、敷金は全額返還されるべきです。
つまり、「敷金」はただの預け金であり、そこから引かれる根拠が「特約」なのです。これらは別の概念なので、二重取りにはあたりません。
払う前に絶対チェック!その特約、本当に有効?
「特約があったら、言いなりに払うしかないの?」と諦めるのはまだ早いです。 実は、その特約が無効、あるいは減額できるケースが存在します。以下の3つのチェックポイントを確認してください。
チェック①:金額が具体的か?
過去の裁判例では、入居者が負担すべき金額が契約時に明確になっていないと、特約が無効とされることがあります。
- ◯ 有効になりやすい例: 「退去時クリーニング費用として、一律35,000円(税別)を負担する」
- × 無効になりやすい例: 「退去時クリーニング費用は借主の実費負担とする」(いくらかかるか不明確)
金額が明記されておらず、退去時にいきなり「8万円です」などと言われた場合は、「契約時に金額を聞いていません」と反論できる余地があります。
チェック②:相場より高すぎないか?
特約があったとしても、法外な金額までは認められません。一般的なハウスクリーニングの相場から大きくかけ離れていないか確認しましょう。
【広さ別・クリーニング代の相場目安】
- ワンルーム・1K(〜25㎡): 25,000円 〜 40,000円
- 1LDK・2DK(30〜50㎡): 40,000円 〜 60,000円
- 2LDK・3DK(50㎡〜): 60,000円 〜 80,000円
もし、ワンルームで「クリーニング代 80,000円」などの請求が来ていたら、それは明らかに相場以上です。「特約には同意しましたが、相場を大きく超える金額には同意していません」と交渉可能です。
チェック③:エアコン洗浄代は別?
よくあるトラブルが、「ハウスクリーニング代」とは別に「エアコンクリーニング代」が請求されているケースです。 契約書の特約に「エアコン洗浄費用を含む」と書かれていれば払う必要がありますが、記載がない場合、エアコン内部の洗浄は「グレードアップ」とみなされ、本来は大家負担となる可能性が高い項目です。
地域特有のルールに注意!「敷引き」とは?
もしあなたが関西地方や九州の一部にお住まいなら、**「敷引き(しきびき)」や「償却(しょうきゃく)」**という言葉が契約書にありませんか?
これらは、「預けた敷金(保証金)のうち、◯◯万円(または◯ヶ月分)は、退去時に無条件で大家さんのものになります」という契約です。
- 例:敷金20万円、敷引き10万円の場合 → 退去時、部屋がピカピカでも10万円は返ってきません。
この「敷引き」されるお金の中に、クリーニング代や修繕費が含まれていると考えられます。 もし、「敷引き」をされた上で、さらに別途「クリーニング代」を請求されている場合は、二重取りの可能性が極めて高いです。「敷引きの中にクリーニング費用も含まれている認識ですが、なぜ別途請求なのでしょうか?」と確認しましょう。
この敷引きも高額すぎると無効という判例が出ているから注意です。
不当な請求を防ぐための「退去時アクション」
最後に、少しでも損をしないために、退去時に私たちができる自己防衛策をまとめます。
1. 契約書のコピーを用意する
退去の立ち会い(ルームチェック)の日には、必ず契約書の「特約事項」のページを確認できる状態で臨みましょう。
2. 「ガイドライン」という言葉を味方につける
管理会社の担当者が高圧的に費用を請求してきた場合、感情的にならず、次のように伝えてみてください。
「国土交通省のガイドラインでは、原則貸主負担ですよね? 特約があるのは理解していますが、この金額の根拠は何ですか?」
「ガイドライン」という言葉が出るだけで、相手は「この入居者は知識がある、適当なことは言えない」と身構えます。
3. 見積書はその場でサインしない
退去立ち会いの現場で、「この内容でよければここにサインを」と求められます。 内容に少しでも納得がいかない、あるいは特約と照らし合わせて金額がおかしいと感じたら、「一度持ち帰って検討します」と伝え、その場でのサインは拒否しましょう。サインをしてしまうと、その金額に合意したことになり、後から覆すのが難しくなります。
自分で判断するのが不安な方へ。あなたの退去見積もり、チェックします
「記事の内容はわかったけど、実際に自分の契約書や見積書が適正なのか判断するのは怖い…」 「管理会社の担当者に言いくるめられそうで不安」
そう感じるのは当然です。相手は不動産のプロ、こちらは素人ですから、知識があっても交渉には勇気がいりますよね。
もし、少しでも「高すぎる気がする」「この請求はおかしいかも」とモヤモヤしているなら、私があなたの代わりに「その請求書が適正かどうか」を第三者の視点でチェックします!
ココナラにて、実際の契約書や退去費用の見積書を拝見し、「ここは払わなくていい可能性が高い」「ここは相場より高いから交渉できる」といった具体的なアドバイスを行っています。
不当な費用を支払ってしまう前に、ぜひ一度ご相談ください。その数千円の相談料で、数万円の節約ができるかもしれません。
リフォーム見積もりのセカンドオピニオン承ります その工事、本当に必要ですか?工事発注のプロがアドバイスまとめ:契約書を確認することが最大の節約術
「敷金があるのにクリーニング代も払うの?」 この問いへの答えは、「基本的には敷金から差し引かれる形になるが、契約書に『特約』があれば支払う義務がある」となります。
しかし、以下の場合は交渉のチャンスです。
- 契約書に「クリーニング特約」の記載がない。
- 特約はあるが、具体的な金額が書かれていない。
- 請求額が相場より明らかに高い。
- 「敷引き」があるのに、別途クリーニング代を請求された。
引っ越しはただでさえお金がかかります。本来払う必要のないお金まで払ってしまわないよう、まずは棚の奥にしまってある契約書を引っ張り出して、「特約事項」の欄をチェックすることから始めましょう。
その5分の確認作業が、数万円の節約につながるかもしれません。


